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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)9872号 判決 1992年7月24日

大阪府大東市<以下省略>

原告

大阪府吹田市<以下省略>

被告

オッペン化粧品株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

渡邊俶治

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、3185万円及びこれに対する平成3年12月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告と化粧品特約店販売契約を締結していた原告が被告の納品停止によって販売利益相当額3185万円(月平均利益65万円×平成2年11月から同6年11月までの49か月分)の損害を受けたとして、同金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの商事法定利率の割合による遅延損害金の支払を請求した事件である。

一  前提事実

昭和61年8月4日、原告は、被告との間で化粧品特約店販売契約(以下「本件契約」という。)を締結したが(当事者間に争いがない。)、右契約によると、原告(特約店)は消費者に対して直接訪問販売を行うこと(第2条)、原告が契約に違反した場合またはそのおそれがあると被告が認めた場合には被告はただちに契約を解除でき(第14条(3))、契約違反のおそれのある場合には出荷停止できること(第18条)、被告の要求のある時には原告は商品の販売状況につき報告義務を負うこと(第19条)となっていた(甲1、乙3)。

以後、両当事者間の取引が継続されたが、平成2年10月3日以降、被告は、原告が本件契約に違反して商品の直接訪問販売を行わずにディスカウントショップに卸販売を行ったとして、原告への商品出荷を停止(以下「本件出荷停止」という。)した(当事者間に争いがない。)。

二  争点

1  平成元年から同2年にかけて、原告がディスカウントショップ「メイクショップ竹」に被告商品を卸販売したと言えるか。

2  本件出荷停止は、理由があるか。

本件出荷停止は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に違反するか。

3  原告の損害額

第三争点に対する判断

一  原告が被告商品をディスカウントショップ「メイクショップ竹」に対して卸販売したと言えるか。

前記第二の一の事実並びに乙1、2、8、9、証人B及び同Cの各証言、原告本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

昭和61年8月4日の原告被告間の本件契約に基づき、被告は、東大阪支店から原告に対して被告商品を出荷してきたが、原告は、病院やバス会杜等の女性の多い職場に勤めている女性と販売員契約を締結し、同人らにその職場で商品をさばいてもらう職域販売の方法を主たる方法として被告商品を販売していた。平成元年の春ころ、千林商店街(大阪市旭区)の中にディスカウントショップ「フラッシュ」が開店したが、被告と委託販売契約を締結しているセールスから、同店において被告商品が安売りされているとの苦情が寄せられ、セールスの間では、原告が月に2、3百万円もの商品を販売しているにもかかわらず、原告店の販売員と販売訪問先が競合したことがないことなどから、原告店がフラッシュに対して商品を流して商品を大量にさばいているのではないかとの意見が出た。そこで、被告は原告に出庫する商品に目印を付けて、その商品がディスカウントショップで販売されているか否かを調査することとなり、平成元年11月14日から同2年3月19日の間、7回にわたって、当時新製品でもっとも販売数の多かった化粧液「彩霞」を選んで、同商品に入っている能書(乙2)を、文章の一部に印を付けた(読点を上からボールペンでなぞった。)能書(乙1)と差し替えて、合計71個の彩霞を原告に出庫した(乙9)。平成2年6月、鳥取市にあるディスカウントショップ「メイクショップ竹」の通信販売カタログに被告商品20パーセント引きとして彩霞の表示があったことから、同年6月19日及び同年7月2日の2回にわたり、被告会杜職員が個人名で右彩霞を注文したところ、送付されてきた商品には、いずれも前記印を付けた能書(うち、1枚が乙1。)が入っていた。なお、右印を付けた能書入りの彩霞が出庫される都度、被告会社の当時の営業総本部マーケティング企画部販売企画課のBは、フラッシュ(千林店及び尼崎店)並びに東大阪市内のディスカウントショップ2店を回って、右店舗で販売されている彩霞を購入したが、右店舗では、いずれにおいても印を付けた商品を発見することができなかった。前記メイクショップ竹における被告製品の販売の確証を得た被告は、平成2年9月ころ、東大阪支店統轄店長であるCを通じて原告に対して、被告が原告に出庫した商品がディスカウントショップにおいて販売されている旨を告げて釈明を求めたところ、原告は「心当たりがない。やっていない。調べてみる。」との答弁をした。

以上認定の事実によると、被告から原告に出庫された商品のうちの一部がディスカウントショップ「メイクショップ竹」において店頭販売されていた事実は明白であり、したがって、右卸販売が、たとえ原告により直接的になされたものではなくとも、少なくとも原告傘下の販売員によって行われていたものと推認される。

二  本件出荷停止について

1  右事実によれば、結局、原告は、本件契約により被告に対して負っている消費者に対して直接訪問する方法で販売すべき義務に違反したものと言わざるを得ない。

よって、被告が原告に対して行った本件出荷停止は、原告の本件契約違反行為に対し、特約に基づき行ったもので理由がある。

2  原告は、販売方法を直接訪問販売に限定する本件契約条項(以下「本件訪問販売特約」という。)は独占禁止法違反であり、本件条項違反を理由とする本件出荷停止は許されない旨の主張をするが、前記B及び同Cの各証言によれば、被告商品の販売順位は日本国内で10位前後、シェアは約2パーセントに過ぎず、被告は市場に対する支配力、影響力をほとんど有していないことが認められ、他方右各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は従前他の業者から化粧品を仕入れて販売していたもので、仕入先を変更することはそれほど困難なことではないことが認められ、右事実によると、本件訪問販売特約自体は特約店の自主的な競争機能を制限して競争秩序を害するとまで言うことはできず、独占禁止法2条9項4号に定める相手方の事業活動を不当に拘束する条件とは認め難い。そして、市場に対し支配力をほとんど有しない事業者が、本件訪問販売特約違反を理由として出荷停止をしても、独占禁止法2条9項1号に違反するとまで言うことはできない。

なお、原告は、本件契約条項のうち、競争業者の商品の販売禁止(第9条)、再販売価格の遵守(第10条、この点に関しては、甲2、乙5によって、公正取引委員会が平成3年7月31日に被告に対して警告を行ったことが認められる。)及び被告の調査権限(第20条)といった条項も独占禁止法(3条ないしは19条)に違反する旨主張するが、本件出荷停止は、右条項違反を根拠とするものではなく、前記のとおり販売方法に関する特約違反を理由とするものであるから、原告の右主張を検討するまでもない。

三  以上によれば、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 熱田康明 裁判官 比嘉一美)

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